「どうしたら君をきのこ狩りに連れて行けるか考えている。」Part 1はこちらから。
きのこ狩りには、かごとナイフが必需品だ。きのこは息をしているので、ビニールに入れると途端に悪くなってしまう。通気性の良いかごが一番適している。かごとナイフを持って、クリスティヨーナスはぐんぐんと道なき道を迷いなく進んでいく。苔でふかふかの地面。その中にビルベリーやクランベリーが一面に自生している。七月はビルベリーが旬の季節を迎える。ベリーは見つけたら食べるのがお約束だ。ひとつ頬張っている間に次の食べ頃の粒に目がいく。ベリーに吸い寄せられて森の奥深くに迷い込んでしまいそうになる。
森を歩きはじめて間もなくして、クリスティヨーナスはきのこを早速見つけて、ナイフで切り取った。一見どこにあるのかさっぱりわからない。苔の下に守られるように生えている。濃い黄色のヒダが見えたら、それがアンズ茸だ。黄色くなった落ち葉と見分けがあまりつかず、これを見つけるのは目が慣れるまでなかなか難儀だ。身長が190cm近くあるクリスティヨーナスは、かがみもせずに次々ときのこの在り処を見抜き、かごはきのこでいっぱいになっていく。
アンズ茸は、リトアニア語で正式名称はヴォヴェルシュカ(voveruška)といい、愛称は「子リスちゃん」を意味するヴォヴェライテ(voveraitė)という。リトアニアに生息するヴォヴェライテは、明るい茶色の毛のリスだ。オークが国樹のリトアニアでは、ドングリを食べるリスのモチーフが子どものお菓子や挿絵によく登場する。食用として最もよく採れるアンズ茸を「ヴォヴェライテ-リスきのこ」と親しみを込めて呼ぶ。
食べられるきのこはどの種類もひっそりと隠れていて、容易には見つからない。その反対で、毒きのこはきのこらしい形をしており、堂々と生えている。きのこを見つけては、クリスティヨーナスに食べられるかどうかを確認する。私が見つけられるきのこはどれも毒のあるものばかりだ。それでも目を凝らし注意していると、苔の陰にあるアンズ茸を見つけられるようになった。ひとつ見つけるとその周辺にいくつか密集していることが多い。クリスティヨーナスはナイフで丁寧に石突きを取り、汚れを落としてかごに入れる。
若い子供のきのこは美味しいらしいが、来年に向けて菌を残しておくためにもすべて取りきってはいけないそうだ。そういうマナーや食べられるきのこの知識など、子供の頃から親のきのこ狩りについてきて学んだのだろう、クリスティヨーナスは何でも知っている。年の頃も同じで、ヴィリニュス生まれ、ヴィリニュス育ち、リトアニアで言えば都会っ子であるわけだが、森での振る舞いを身につけている。それはアウトドア派というような意識的ものではなくて、ごく自然のことのようだ。その一方で、森の中でも携帯が鳴り、iPhone を片手に話しながら、森の奥へ奥へと進んでいく。自然との付き合い方に気取りがなくて好感がもてる。柔らかい苔の絨毯の質感が、足の裏にも伝わってくる。きのこのためには良い苔が大事なのだそうだ。不思議と森の奥にいても閉塞感や恐怖感がない。明るく開けている森。リトアニアの森は、日常の延長線にあるのだ。
どこを歩いているのか、方角もつかめないままクリスティヨーナスに着いていくと、いつの間にかまた家の近くに戻ってきた。「昨日、お父さんがたくさん採ってしまったから、あんまり収穫がなかったね。」とクリスティヨーナスは言うけれど、かごの中の収穫に満足の朝だった。家に戻ると、クリスティヨーナスのお母さんが朝ごはんを準備して待っていてくれた。こうしてリトアニア人にとって重要なきのこ狩りを初経験することができたわけだが、この夏の滞在中に三度もきのこ狩りに行くことになるとは、その時は思いもよらなかった。森があれば、きのこを採りに行くのが当然なのだ。
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